Vision Earsのユニバモデル"Erlkönig(エルケーニッヒ)、なかなか情報が出てこないな〜と思っていたら、ポタフェス2018夏東京に登場し、今では各店にデモ機が設置されるスピード感。本国ではちょっと前から発売していたので、日本での展開タイミングをイベントに合わせた感じでしょうか。

Vison Earsとはプロ向けカスタムIEMを専門とするオーディオメーカーで、設立2013年と比較的若いブランドです。大元はコンパクトモニターズという老舗補聴器メーカーが分裂した内の一つです。もう一つはRhines Custom Monitors(ラインズカスタムモニターズ)ですがこちらは日本ではあまり有名ではありませんね。

Vision Earsの現状ラインナップはVE2→VE3→VE4→VE5→VE6→VE8、数字はドライバー数を表しており、VE6に関しては低域を調整したX1とX2という2つのモデルが存在し、2種類の音を切り替えられるスイッチ機構付きVE6XControlもラインナップされています。

ユニバーサル機は一切造らない硬派なメーカーだったのですが、ようやく重い腰を上げたのか昨年頃からユニバーサル機の開発に着手したようです。それが”Erlkönig(エルケーニッヒ)”。シューベルトの魔王”Der Erlkönig”から。個人的にはVE2~8の試聴機をそのままユニバ化すれば売れるんじゃね?って思っていたところ60万の機種をぶっ込んできたものですから、流石にこれは予想できませんでした。

どんなに音が良かろうとこの機種を手にできるユーザーは限られているのですが、せっかく近所に試聴機が用意されているのでどれほどの実力を秘めているのかじっくり聴かせてもらいました。VE5やVE6XCを現在進行形で愛用しておりますので、それらとの比較も交えてまとめたいと思います。

エルケーニッヒの仕様

現地価格で€4200、日本価格は60万という超弩級ユニバーサルイヤホンです。

ドライバー構成はBA13ドライバー、Bass*4-Mid*4-High*4-SuperTweeter*1、5Way構成。

シェルの材質は純銀、バンドルされるケーブルもEffect Audio製の純銀ケーブルでシルバー尽くし。VE6のコラボモデルLimited Silver Edtionの時もLionidasやらThor SilverⅡ8Wがバンドルされていました。Effect Audioの銀線はVision Earsと相性が良いのです。

車のカモフラージュのようなデザインのフェイスプレートはErlkönig-Patternと名付けられています。フェイスプレートは取り外し可能で、デフォルトプレートの他に、オプションでブラック・ローズゴールド・ゴールド・シルバーの4色のプレートに付け替え可能。

フェイスプレートはマグネットで本体にはめ込むタイプで、プレート取り外し用の溝にピンを挿入し、てこの原理で簡単に取り外すことができます。装着している間にポロッと外れてしまわないか心配ですが、本体にカチッとはまっている状態ならばプレートだけ紛失することはなさそうです。フェイスプレートを外すとこのような4方向ダイヤルが登場。矢印の方向によって下記のような味付けができます。

  1. Powerful Bass
  2. Moderate Bass
  3. Super High
  4. Forward Mids

この辺りの音の変化は"音質"の項でレビューします。

スイッチ機構を持っているモデルはVision Earsの中でもVE6XCがありますし、他にもLime EarsのAether、qdcのGEMINIなどが数年前から存在しているので音変できる機種自体は珍しくありません。またスイッチを2つ搭載したモデルはJomo AudioのFlamencoやLIVEZONE R41のPLURAがありますが、前者は低域を可変させるローブーストと高域を可変させるハイブースト、後者は低域を3dB→6dBを段階的に可変させる低域主体のスイッチを設けており、それぞれのスイッチの組み合わせで計4パターンの音を切り替えることが可能です。

装着感・遮音性 44/50

  1. 41-50:カスタムIEM相当、筐体が耳にマッチしており収まりも完璧。遮音性も高く、騒がしい店内でも大きくシャットアウトしてくれる。
  2. 31-40:カスタムレベルとまでいかないが装着していてストレスフリー、かつ遮音性も確保できている。
  3. 21-30:装着感は良好だが遮音性が伴っていない。イヤピによる調整必須、屋外用途でギリギリ使えるレベル。
  4. 11-20:装着できなくはないが、装着感もいまいちで遮音性も低い。
  5. 0-10:痛みを伴うレベルで筐体が合わず、装着できない。極めて絶望的。

装着感は完璧。痛みも感じませんし、適度に重量があるのでしっかりホールドしてくれます。密度の高い純銀を使用しているため遮音性も高く、装着感さえ問題なければカスタムIEM並にストレスフリーでした。もちろんユニバーサルなので万人の耳にフィットするものではありませんが、シェル形状はよく考えられていると思います。

音質

試聴環境、DAPはAK380SS+SSAMP、音楽のジャンルはロック、エレクトロ、ポップス、ゲームサントラです。

Powerful Bass

まずはモード1"Powerful Bass"から。こちらは低域が最もブーストされるチューニングです。エルケーニッヒはどのモードであっても全域の情報量が多く非常に濃密です。VE6XCのような駆け抜けていくスピード感を失った代わりに、中低域の濃密さを手に入れた感じ。Vision Earsらしからぬドッシリと横に構えた低域で、VE6XCの乾いた音とは逆に非常にウェットに仕上がっています。銀の影響からか高域も比較的伸びますがピアノやヴァイオリンといった繊細な楽器は上手く表現できません。余韻も少なく、電子音に強いのでメカニカルなジャンルを聴きたいところ。

Moderate Bass

次にモード2"Moderate Bass"。4つのモードの中で最もニュートラルな音ですが、モード1と比べると低域が減り若干見通しが良くなります。ベースの他にキック、コントラバス、オルガンやアコーディオンの低音域も若干減衰します。この状態でも十分すぎる低域ですが、ここからさらに低域の量感を増加させる場合は1に、高域を伸びやかにする場合は3にダイヤルを捻ることになります。他のメーカーと比べたら分離感は強めですがVEにしては割と控えめの部類。1や3のほぐされ具合がヤバいので相対的に分解能が低く感じます。

Super High

そしてモード3"Super High"。個人的に4つの中でこのモードが一番良いと感じました。これでも低域は十分で、VE8の分離感を抑えて、全帯域の音をさらに濃縮したような音です。ハイハットは一打一打際立つようになりますし、アコースティックギターのアルペジオの絶妙な響かせ具合は一聴すべき。ただ相変わらず余韻は控えめで、大ホールでしっとりリラックス聴かせてくれるわけではなくて、クラブやライブハウスで溌剌と飛び跳ねさせてくれます。低域が増強されるモード1はパラフルベースという名称ですが、3だと高域が一層シャキッとするので別のベクトルでパワフルになります。

Forward Mids

最後にモード4"Forward Mids"。中域増強型でモード2をさらにかまぼこにした感じ。このモードも悪くなく、3の伸びやかな高域はそのままに中域全体が前方に向かってくるため、必然的にボーカルが近くなります。歌詞入りならばモード4で、歌詞なしならばモード3で使い分けしたいところ。同じく中域に特徴を持つVE5よりも中高域にかけてのスッキリ感は薄く、上位互換下位互換の関係ではありません。

個人的な嗜好 86.5/100

  1. 低域よりも中高域重視、低域は量より質、スピード感高めにカッチリ固めに鳴らしてほしい。
  2. ボーカルも楽器の一部、最前面にこなくてOK。全楽器横並びに、分離感は程々に強いとなお良し。
  3. クラシックやジャズを聴くわけではないので音場は重要ではないが余韻(残響感)は欲しい、ライブ音源を気持ちよく聴きたい。

A/BはVE6XCが理想的すぎるので、それと比較すると好みの範疇からは外れます。モード4がボーカル向けになっており、近すぎる場合はモード2で遠ざけることも可能。モード3のシャキッとした高域と重々しい低音は病みつきになりますが、VE6ほど音にトゲがなく、情報量だけ豊富という印象は拭えません。時には思い切って音を削ぎ切ることも重要なんだなと思わせてくれます(-7)

Cについてはどのモードも琴線に触れませんでした。全体的にギッチリ音が濃縮されているので、非常にエネルギッシュで電子音楽との相性が素晴らしいのですが、ライブ音源の演奏終了後の残響感はLegend XやUE LIVEの方が好みです(-7)

装着感・遮音性の項目と合わせると、

44*1/2+86*3/4=86.5/100

価格も加味すると個人的には半分以下の評価になってしまいますが、

欲しい人がいてもおかしくはない水準は確保しているとは思います。

まとめ

いずれのモードも傾向は似ており、装着した状態でスイッチ上げ下げできるわけではなく、音の変化が若干掴みにくいかもしれません。2を起点として、1はローからミッドにかけて、3はミッドハイ以上を伸ばし、4はミッドローからミッドハイの間を全体強化させます。もっとガラッと音が変わるかと思いましたが、オールマイティに使えるものではなく、かなりジャンルを選ぶと思います。モードを変えたからと言って全く別の音にはならず味変程度の違いでしかありません。油そばに酢を混ぜようが、ニンニクを加えようが、出汁に浸そうが、どこまでいっても油そばは油そばです。

メーカーが掲げる理想に向かって「予算度外視で持ちうる技術を全部つぎ込んでみました!」って言うならまだ理解できますし、全く異なる4つの音を切り替えられるならばそれも技術の集大成として支持したいと思えるのですが、中核となる音に少し変化を加えた程度じゃ性質の異なるイヤホン4本まとめてGETとは到底言えたものではありません。冷静に考えなくても付け替えフェイスプレートに3万って言うまでもなく頭がおかしく、ここまでくると"音の鳴る工芸品"のような立ち位置になるので、予算度外視でその辺りの感性を理解できる人が購入されるならば心から羨ましいと思えますけど、ローン払いしてまで買ってしまう人が現れないことを祈るばかりです。人それぞれ価値観が異なるので、こういうぶっ飛んだ嗜好品に関しては様々な論争が巻き起こりますが、60万という価値を見出せた人だけが手にすればそれでいいと思いました。評価するのはユーザーですから、それを受けてVision Earsがまた違ったユニバ機種を今後も出してくれたら嬉しいですね。