Vison Earsとはプロ向けカスタムIEMを専門とするオーディオメーカーで、設立2013年と比較的若いブランドです。大元はコンパクトモニターズという老舗補聴器メーカーが分裂した内の一つです。もう一つはRhines Custom Monitors(ラインズカスタムモニターズ)ですがこちらは日本ではあまり有名ではありませんね。
Vision EarsのラインナップはVE2→VE3→VE4→VE5→VE6→VE8、数字はドライバー数を表しており、VE6に関しては低域を調整したX1とX2という2つのモデルが存在し、2種類の音を切り替えられるスイッチ機構付きVE6XControlもラインナップされています。
ユニバーサル機は一切造らない硬派なメーカーだったのですが、ようやく重い腰を上げたのか昨年頃からユニバーサル機の開発に着手したようです。それが”Erlkönig(エルケーニッヒ)”。シューベルトの魔王”Der Erlkönig”から。個人的にはVE2~8の試聴機をそのままユニバ化すれば売れるんじゃね?って思っていたところ60万の機種をぶっ込んできたものですから、流石にこれは予想できませんでした。
どんなに音が良かろうとこの機種を手にできるユーザーは限られているのですが、せっかく近所に試聴機が用意されているので如何程の実力を秘めているのかじっくり聴かせてもらいました。
目次
エルケーニッヒの仕様
現地価格で€4200、日本価格は60万という超弩級ユニバーサルイヤホンです。
ドライバー構成はBA13ドライバー、Bass*4-Mid*4-High*4-SuperTweeter*1、5Way構成。
シェルの材質は純銀、バンドルされるケーブルもEffect Audio製の純銀ケーブルでシルバー尽くし。VE6のコラボモデルLimited Silver Edtionの時もLionidasやらThor SilverⅡ8Wがバンドルされていました。Effect Audioの銀線はVision Earsと相性が良いのです。
車のカモフラージュのようなデザインのフェイスプレートはErlkönig-Patternと名付けられています。フェイスプレートは取り外し可能で、デフォルトプレートの他に、オプションでブラック・ローズゴールド・ゴールド・シルバーの4色のプレートに付け替え可能。
フェイスプレートはマグネットで本体にはめ込むタイプで、プレート取り外し用の溝にピンを挿入し、てこの原理で簡単に取り外すことができます。装着している間にポロッと外れてしまわないか心配ですが、本体にカチッとはまっている状態ならばプレートだけ紛失することはなさそうです。フェイスプレートを外すとこのような4方向ダイヤルが顔を出します。矢印の方向によって下記のような味付けができます。
- Powerful Bass
- Moderate Bass
- Super High
- Forward Mids
スイッチ機構を持っているモデルはVision Earsの中でもVE6XCがありますし、他にもLime EarsのAether、qdcのGEMINIなどが数年前から存在しているので音変できる機種自体は珍しくありません。またスイッチを2つ搭載したモデルはJomo AudioのFlamencoやLIVEZONE R41のPLURAがありますが、前者は低域を可変させるローブーストと高域を可変させるハイブースト、後者は低域を3dB→6dBを段階的に可変させる低域主体のスイッチを設けており、それぞれのスイッチの組み合わせで計4パターンの音を切り替えることが可能です。
装着感・遮音性
- 筐体が耳にマッチしており収まりも完璧。遮音性も高く、騒がしい店内でも大きくシャットアウトしてくれる。
- 装着していてストレスフリー、かつ遮音性も確保できている。
- 装着感は良好だが遮音性が伴っていない。イヤピによる調整必須、屋外用途でギリギリ使えるレベル。
- 装着できなくはないが、装着感もいまいちで遮音性も低い。
- 痛みを伴うレベルで筐体が合わず、装着できない。極めて絶望的。
装着感は完璧。痛みも感じませんし、適度に重量があるのでしっかりホールドしてくれます。密度の高い純銀を使用しているため遮音性も高く、装着感さえ問題なければカスタムIEM並にストレスフリーでした。もちろんユニバーサルなので万人の耳にフィットするものではありませんが、シェル形状はよく考えられていると思います。
音質
1.Powerful Bass
2.Moderate Bass
3.Super High
4.Forward Mids
まとめ
いずれのモードも傾向は似ており、装着した状態でスイッチ上げ下げできるわけではなく、音の変化が若干掴みにくいかもしれません。2を起点として、1はローからミッドにかけて、3はミッドハイ以上を伸ばし、4はミッドローからミッドハイの間を全体強化させます。もっとガラッと音が変わるかと思いましたが、オールマイティに使えるものではなく、かなりジャンルを選ぶと思います。モードを変えたからと言って全く別の音にはならず、味変程度の違いでしかありません。油そばに例えると、酢を混ぜようが、ニンニクを加えようが、出汁に浸そうが、どこまでいっても油そばは油そばです。
メーカーが掲げる理想に向かって「予算度外視で持ちうる技術を全部つぎ込んでみました!」って言うならまだ理解できますし、全く異なる4つの音を切り替えられるならばそれも技術の集大成として支持したいと思えるのですが、中核となる音に少し変化を加えた程度じゃ性質の異なるイヤホン4本まとめてGETとは到底言えたものではありません。付け替えフェイスプレートに3万っていうのもどうなんでしょう。ここまでくると"音の鳴る工芸品"のような立ち位置になるので、予算度外視でその辺りの感性を理解できる人が購入されるならば心から羨ましいと思えますけど、ローン払いしてまで買ってしまう人が現れないことを祈るばかりです。人それぞれ価値観が異なるので、こういうぶっ飛んだ嗜好品に関しては様々な論争が巻き起こりますが、60万という価値を見出せた人だけが手にすればそれでいいと思いました。評価するのはユーザーですから、それを受けてVision Earsがまた違ったユニバ機種を今後も出してくれたら嬉しいですね。