革靴と言えば英国製。あらゆるジャンルで疑いもなく盲目的に「日本製は世界一」と思い込んでいる人は沢山いますが、私はそうは思いません。
確かに高品質なものは多いですが、「革靴」という分野であれば圧倒的に英国イギリスが他の追随を許さない圧倒的な品質を誇っています。英国革靴が密集した「ノーサンプトン」という地域があります。創業100年以上のシューメーカーが当たり前のように犇めく"英国革靴の聖地"で、ここに工房を構えるシューメーカーは世界中の愛靴家に愛されています。
当記事ではノーサンプトンに本社を構えるChurch’sの歴史と魅力を紐解きます。英国革靴の二大巨頭”JohnLobb”と”EDWARD GREEN”とはまた違った魅力があり、「革靴はChurch’s以外あり得ない」「その中でもオールドチャーチ一択(オールドについては後述します)」とまで明言する愛好家もいるくらい。
歴史
時は1600年代後半まで遡ります。ストーン・チャーチは1675年に生まれ、修行の後に靴作りの名匠なった。その後、1873年に初代の技術を受け継いだ曾孫のトーマスが妻のエリーザ、息子のアルフレッド、ウィリアムと共にノーザンプトンに小さな工房を開業しました。
今でこそ紳士靴のシューメーカーとして世界的に知られていますが、創業当初は”カントリーシューズ””サドルシューズ”のような軍用靴が始まりです。
この当時、靴は左右の区別がなく真っ直ぐなものでしたが、Church'sは初めて左右のある靴を製造し、サイズ展開にもハーフサイズを取り入れました。この革新的な発明によって、Church'sは1881年にロンドンで行われた靴の展覧会で金賞を受賞します。
英国シューメーカーの中では珍しく、かなり早い段階から世界進出を視野に入れ1887年には欧州諸国に進出、20世紀初頭には北米に進出しています。
ちなみに1858年創業の”JohnLobb”は隣の仏国進出したのは1902年と早いものの世界進出を果たしたのは1980年代、1890年創業の”EDWARD GREEN”は1980年代にようやく隣の仏国進出し、世界進出を果たしたのも同じタイミングです。いずれも経営不振からHERMESの手が掛かったことによる偶然の産物です。かねてから世界にその名を羽ばたかせるという意識は、Church’sが特に強かったようですね。
1910年を過ぎ第一次世界大戦が始まるとインドや南米にも進出して、世界中に知られるブランドとなります。そして1921年には、同国ロンドンにショップをオープン。
1930年に米国ニューヨークに支店をオープン。ニューヨークのブルックス・ブラザーズの近くに出店したおかげで、ブルックス・ブラザーズでスーツを買ったら、そのあとChurch'sに靴を買いに行くスタイルが定番でした。(私は生まれていないので定かではありませんが)
1957年には現在Church'sの本社となっている新工場をノーサンプトンのセント・ジェームズ・ストリートに建設しました。その後も海外で発展を続け、アメリカ、カナダ、イタリア、香港などに支社を設立しました。
1965年にはエリザベス2世の訪問を受け、その輸出力に対して女王賞が授与されたことにより、世界ブランドとしてのChurch'sの地位はより強固なものになりました。大塚製靴がChurch'sの輸入を開始したのも同年。
次々と世界的に進出し、日本でもその地位が完全に確立された1984年、エリザベス女王から輸出実績が評価され、表彰を受けました。
この頃バブリーな日本で高級靴というジャンルが定着していきます。世界的なシューメーカーが雑誌で紹介され、Church'sをはじめ、エドワードグリーン、ロブパリ、クロケット&ジョーンズといったノーサンプトンに籍を置くメーカー特集のような記事が乱立し、ブランドイメージが出来上がります。1990年前後の価格はエドワードグリーンでも6万円、Church'sもそれに近く5万円代後半だったそうで、今ほど価格差はありませんでした。
1999年、Church'sはブランド大手のPRADAに買収されました。ビジネスチャンスを拡大したいという明確な意志によるもので、エドワードグリーンやジョンロブのような経営の悪化によるものではありません。いち早く他国に目を向けたのもChurch'sですし、利用できるものは利用するという経営戦略の巧さを感じさせます。支店も2001年にミラノ、2002年にパリ、ローマ、サン・モリッツ、さらに2003年にはニューヨーク、世界主要都市にChurch'sの新店舗が続々とオープンしていき、今では代表的な革靴メーカーとして知られるようになりました。結果として、生産性が向上し大手ブランドの多角的視野から現在のファッションに合う靴を国別に作ったり、明確に最高級ラインを設けたり、様々なコレクションを手がけましたが、その反面で「古き良きChurch'sがいい」、「Church'sは変わってしまった」と言われるのも歴史の流れからすると仕方のないことかも知れません。
シューメーカーとしての特徴
革靴の聖地ノーサンプトンに工房を構える英国シューメーカー全体に言えますが、グッドイヤー・ウェルト製法を得意としています。
量産できる製法の中でもトップクラスの履き心地とメンテナンス性を持つので末長く履くことができるのがこの製法の特徴
創業当時から今までずっと、1足あたりに250工程、8週間の時間を掛けて靴が作られていきます。
素材となる皮革は世界中から選りすぐった最高級のものしか使用せず、妥協のない靴を作り続けています。
近年では革自体の高騰による値上がりが続いていますが、かつては6万円程度で主要モデルを購入できたことから『英国最後の良心』とも呼ばれていました。現在では10万近くまで値上がりし、決して安いものではありませんが、古くからのファンの多いメーカーです。
現行チャーチとオールドチャーチ
EDWARD GREEN(エドワードグリーン)だったらHERMESによる買収騒動から工場移転、その前後でオールドモデル、新モデルと呼ばれるようになりました。またJohnLobbだったら同じくHERMESに買収されたパリ支店をロブパリ、創業当初からノーサンプトンの地でビスポークのみを手掛けるロブロンドンと別れています。
Church'sも同様に歴史の中で同一モデルでも新旧が付けられています。そのタイミングは1998年にPRADAに買収された時です。
明らかに作りが変わっているので、買収前は"オールドチャーチ"、買収後は"現行チャーチ"と区別されています。
現行チャーチは伝統性に加えてモダンチックになり、"質実剛健な英国靴"か"ブランドを意識した小綺麗な革靴"といった違いです。
新しいものにも良い部分はありますし、古いものだけが肯定されているわけではありませんが、多くの革靴マニアはオールドがいいと言うでしょう。
というのも買収されるまでは、一つのラストで同一モデルを作る慣習がありました。今でも定番のチェットウインド、ディプロマット、コンサル、グラフトン、ピカデリー、ウエストバリーなどは#73、バーウッド、ライダー、フェアフィールド、エクスデイルなどは#81、ヒックステッド、バーフォード、バークロフトは#84。
このように一つのラストでスタイルを変える手法を長くとってきた珍しいメーカーで、昨今の同一モデルでも時期や流行、販売される国や限定モデルによってラストを複数使い分けるメーカーではなかったのです。
同じモデルでもラストを使い分ける、というのは「ラストAでも悪くはないけどラストBの方がもっとしっくりくる」と言うようにいい意味で柔軟性がありますけどね。現行チャーチだとシャノンとかランポートのようなオールドチャーチにはない素晴らしいスタイルもあるので気に入ったものを取ると良いと思います。
区別の方法はブランドロゴでわかるのですが、中敷にLONDON(ロンドン)、NEWYORK(ニューヨーク)、PARIS(パリ)の3都市名が記されていればオールドチャーチ。この3都市に加えてMILAN(ミラン)の都市名があるものが現行チャーチです。ちなみにロンドン、ニューヨークの2都市のみだと旧オールドチャーチと呼ばれ、綺麗なものだとヴィンテージ品としての価値が非常に高いお宝です。
現行モデル一覧
新しくなったChurch'sは現代人の足に合うようもともとの#73を改良し、#173を主要スタイルに適用している。アッパーをガラス仕上げにしたブックバインダーは旧チャーチの十八番だったが、現在もポリッシュドバインダーと名を変えて継続している。
Diplomat(ディプロマット)
内羽根セミブローグ。現行ラストは創業当初から存在していた#73の改良版#173である。角ばりすぎず丸すぎないバランスの良いトゥが特徴
フォーマルにいくなら後述するコンサルだが、派手すぎず控えめ過ぎない装飾が施されているのでオン・オフ問わずさまざまなスタイルに合わせやすい万能型。旧名はHighgrove(ハイグローブ)。
Consul(コンサル)
内羽ストレートチップ。現行ラストは#173。
Church'sを代表するモデルであり、冠婚葬祭からビジネスまでどこに履いていっても恥ずかしくない一足。旧名は Osborne(オズボーン)
Chetwynd(チェットウインド)
内羽根フルブローグ。ラストは#173。
カントリーシューズを起源としたデザインなので、スーツに合わせる革靴としては賛否が分かれるところではあるが、ドレッシーに決め込めたいなら全然アリだと思う。旧名はSandringham(サンドリンガム)。
Burwood(バーウッド)
内羽根フルブローグ。ラストはラウンドトゥでボリュームのある#81を採用。ボリューム感のエッグトゥが特徴的な一足。昔ながらの質実剛健さを醸し出す無骨な外観。ややカジュアルテイスト強め。
Shannon(シャノン)
外羽根プレーントゥ。「007 慰めの報酬」ジェームズボンド(ダニエルクレイグ)が着用したことで有名。
ラストは他モデルによく使われる#173よりもトゥに丸みを帯びせた#103が採用されている。
ガラスのようにテカテカ光るポリッシュドバインダーと呼ばれるアッパー革が使われているのが特徴で、トリプルソール仕上げが重厚なオーラを出している。ちなみにノーサンプトンに籍を置くシューメーカーの中では珍しく女性の愛用者も多い。
最高級ライン
現在のChurch'sには最高級ラインがあり、既存モデルとは一線を画したモデルがあります。
キャップトゥのLamport(ランポート)、ダブルモンクストラップのBurghley(バーリー)、フルブローグのChatsworth(チャッツワース)の三種類があります。
ラストは#103より細身な#137。シュッと流線を描いたようなシルエットで、いい意味でChurch'sらしくないと言われます。
専用シューツリー、ポリッシュクリーム、シューホーンまでつく豪華仕様。
国内での取り扱いはほぼありませんが、海外のショップから仕入れることはできるので気になる方は輸入してみてはいかがだろう。