すっかりEMPIREの虜となっている私です。EMPIRE EARSと言えばハイブリッド型のLegend XやNemesisが注目されていますが、BAマルチのPhantomもなかなかの完成度を誇ります。元の価格がNemesisとLegend Xの間に位置する20万ちょいということもあって、数万安いNemesisの低域の方が好み、もしくはもう少し出してLegend Xまで行きたいという方が多いようなイメージでやや不遇な立ち位置になりつつある感じが否めません。
そんなPhantomに興味を持ったのは、デーモン小暮閣下が「さぁい魔すぐ」と手招きしているESTのピンクセールにて、eイヤEST店限定で15万まで値下がりしていたため。6万円引の約30%OFFと発売したばかりにしては高い割引率で、ここまでマイナスされると「ちょっとじっくりと聴いてみようかな」と思わせてくれます。このピンクセールは7月中旬から末まで開催されていたので、悩む時間は十分確保できました。結局購入するには至りませんでしたが、EMPIRE EARSの新作に共通するエッセンスを感じ取れたのでレビューをまとめたいと思います。
Phantomのスペック
BA5基の計5ドライバーを搭載したBAマルチ型。Low*2, Mid*1, High*1,Super High*1で5wayクロスオーバー。
EMPIRE EARSの新作カスタムIEMには共通してsynX crossoverという謎技術が用いられており、NemesisはDD2基、BA3基の計5ドライバーに対して8wayクロスオーバー、Legened Xに至ってはDD2基、BA5基の計7ドライバーに対して10wayクロスオーバーというこれまでの常識を覆すような設計となっております。私自身もこの技術の概要を100%理解できておりませんが、ハイブリッド型や多ドラは各ドライバーごとに帯域を分ける特性上、帯域の境目に歪みが発生しやすく、この辺りの調整が各社腕の見せ所になるのですが、synX crossoverでは各ドライバーごとに帯域を設定することができ、それぞれの信号を完全に制御することができるのが最大のセールスポイントとなっております。
付属ケーブルは他と同じくEffect AudioのAresⅡ。単体でも2万円弱の銅線ケーブルで取り回し良好です。銅線なので低域が強化されがちですが、もともと中高域が伸びやかなモデルなのであまり低域の量が気になることはないと思います。それでも低音量が気になる場合は銀線のThor SilverⅡ、銀銅ミックスのErosⅡなどに変えてみると好みのバランスを見つけられるでしょう。
装着感・遮音性
Phantomは他モデル同様、カスタムIEM版とユニバーサル版が用意されています。カスタムだと装着感が完璧になるのでユニバーサル版も一応評価しておきます。
形状はLegend XやNemesisとほとんど同じですがDDがない分こちらの方がややスタイリッシュ。装着感はハイブリッドモデルと変わらず良好でしっかり耳に収まります。ハイブリッドモデルと比較するとDDのベント孔がない分、Phantomの方が若干遮音性は上と感じました。試聴機で満足できるフィット感を得られるならば、資産としての価値がないカスタム版をあえて選ぶ理由はなさそうです。
音質
試聴環境、DAPはAK380SS+SSAMPのステンレス仕様。ジャンルはロック、エレクトロ、ポップス、ゲームサントラがメインです。アーティストでいうと、Porter Robinson、Skrillex、Metallica、THE BACK HORN、UVERworld、絢香、植松伸夫/桜庭統/ACEなどなど。
かる〜く立ち聴きした時は「ほーん、まぁまぁええやん」とレビューにまとめるまでもないと感じましたが、30分程掛けてじっくり試聴してみるとNemesis以上のドンシャリ型で低域の特定楽器と高域が際立つリスニングモデルと感じました。
低域は十分な量を確保できており、とりわけドラムの連打、ギターの低いところやベースなどの弦楽器の分解感が強く、オーソドックスなパート構成のロックやメタルのバンド音源は最強に気持ち良かったです。
ベースの音はうまく分離されていてアタック感がありますが、反面高域で挙げた楽器の低い音は空間の底を支配するような横にブワッと広がる感覚は控えめ。量は十分だけどNemesisのような低域で支えてナンボというモデルには敵いません。
煌びやかさは少なく、フルートなどの笛やヴァイオリンやチェロといったクラシカルストレングスの高音はどこまでも伸びていくかのよう。キラキラ感はなく重厚ながらも繊細な高音で、ANDROMEDAやSambaのクリアさとは全く別物。
ただベースやギターを採用するロックオーケストラはPhantomならではの低域の分離感と高域の重厚感が融合されるので、ピンポイントでそのような曲を聴くにはもってこい。
音場はLegend XやNemesisの方が広く、Phantomは低域を横に広げるようなチューニングではないので、この部分はどうしてもDDを採用しているハイブリッドモデルに分があるかなぁといったところ。
ボーカルに関してはfitear ESTの方が艶やかです。低域と高域が迫ってくるので相対的には引っ込んで聴こえますが、決して遠い位置で聴こえるわけでもありません。私としては声だけ近くても楽器が付いてきてくれなきゃイマイチと思ってしまうので、これくらいのバランスが丁度良いですね。
まとめ 89/100
装着感・遮音性 44/50
- 41-50:カスタムIEM相当、筐体が耳にマッチしており収まりも完璧。遮音性も高く、騒がしい店内でも大きくシャットアウトしてくれる。
- 31-40:カスタムレベルとまでいかないが装着していてストレスフリー、かつ遮音性も確保できている。
- 21-30:装着感は良好だが遮音性が伴っていない。イヤピによる調整必須、屋外用途でギリギリ使えるレベル。
- 11-20:装着できなくはないが、装着感もいまいちで遮音性も低い。
- 0-10:痛みを伴うレベルで筐体が合わず、装着できない。極めて絶望的。
このファクターはLegend XやNemesisと同程度です。ベント孔がないため遮音性はそれらとは上と思いますが、イヤーピースをがっつりカナルに押し込んで固定するタイプではないので大きな差はありません。
音質 89/100
- 低域よりも中高域重視、低域は量より質、スピード感高めにカッチリ固めに鳴らしてほしい。
- ボーカルも楽器の一部、全楽器の音をバラして聴きたい、解像感高めは正義。
- クラシックやジャズを聴くわけではないので音場も重要ではないが余韻は欲しい、ライブ音源を気持ちよく聴きたい。
Legend XやNemesisと比較すると、最もソリッド感が強いのはPhantomで、ドラムスティックの跳ね具合とベースのストロークが際立つタイプで帯域バランスは非常に好みです。
裏を返せばそれ以外の楽器は特筆すべきポイントが見当たりません(-7) このために20万出せるかと問われて即答できないあたりストライクゾーンではないのでしょうな。
解像感は高いのですが音場はやや狭目。余韻は薄いため、横に広がる感覚はありません(-4) 支配的な低域ならばNemesis、それを抑えて高域を伸ばすならLegend Xを選ぶことになりそうですが、これらのモデルがボワついて苦手という方にはむしろPhantomのローとハイの独特なバランスがマッチするかもしれません。そういう意味では一聴する価値アリでしょう。