一言に革靴と言っても、継ぎ目の少ないフォーマルな物からやメダリオン等の飾りが入っているものまで様々なデザインがあるが、基本的にはアッパーの作りやトゥ・ソール・コバの意匠の組み合わせによって成り立つ。
例えばアッパーの性質はそれ自体が靴の呼び名となるほどの影響があり、穴飾り一つとっても、他の部位の形状・装飾によって革靴としてのスタイルが変わる。革の織り込み型や装飾・パーツの有無で全く違う雰囲気を醸し出すから奥が深い。
当記事では各部の意匠の種類について細かく分けて説明したい。
これを読まれれば出現頻度の高い意匠・デザインについて理解できると思う。
アッパーの造り
内羽根(バイモラル)
クォーターをヴァンプの下に重ねた造り。イギリス王室が発祥でフォーマル度が高くエレガントさも際立つ。羽根の開閉が少ないのでサイズに対する許容度が小さいため、サイズ選びは要注意。参考までに、履いた時に羽根の開きが1cm弱になるサイズを選ぶと、履き慣れ革が伸びきった時にジャストになる傾向にある。
- ※クォーターとは踵から側面をぐるりと覆う部分で腰革とも呼ぶ。
- ※ヴァンプとはトゥの後ろの正面部分で甲革とも呼ぶ。
外羽根(ブラッチャー)
内羽根とは逆にヴァンプの上にクォーターを重ね縫い合わせた造り。羽根が大きく開閉し、シューレースで締め上げることができるのでサイズに対する許容度が大きいのが特徴。軍靴として動きやすさを重視しているのでフォーマル度は内羽根より落ちる。ややカジュアルな印象。
ホールカット
アッパーが一枚革で作られており、"ワンピース"とも呼ばれる。
継ぎ目が少なくスマートなシルエットになるので、装飾の度合いでフォーマルにもドレッシーにも対応。製造工程的にラスト(木型)にアッパーを吊り込む作業が難しく、職人の腕が問われるスタイル。
スリッポン
上記3スタイルのようにアッパーを締め込むシューレースやストラップがなく、土踏まずと踵のホールドだけで履くスタイル。脱ぎ履きはスピーディにできるがサイズに対する許容度は小さい。大きすぎればすぐ脱げるし、小さすぎればキツくて履けない。
フォーマルなデザインも存在するが、カジュアルな印象を受けるので夏のライトな装いに合わせる革靴として好まれる。
サイドレース
羽根の切れ目がサイドに偏っており、シューレースで締め上げるタイプ。
正面から見た時にスッキリした印象を与えてくれる個性派スタイル。
内羽根のような王道感はないものの他人との被ることが少なく近年注目された亜流仕様。
サイドエラスティック
サイドにゴムを織り込んだ布が付けられエラスティック(伸縮式)になっているのが特徴。
フロントにゴムを仕込むタイプも存在する。
スリッポンのように脱ぎ履きを高速化でき、ゴムで固定するのでフィット感も高い。
内羽根のフォーマル靴と実用的なスリッポンのいいとこ取りのようなスタイルで、
ビジネス・パーティ・普段履きなどあらゆる場面に対応できる。
アッパーの装飾
メダリオン/パーフォレーション
アッパーの革の表面に大小の親子穴を規則的に並べた文様装飾。トゥに施されるものをメダリオン、継ぎ目に施されるものをパーフォレーションと使い分ける。元々はカントリーシューズに施された意匠であり、濡れた靴が素早く水分を発散させやすいように空けた穴と言われている。
この装飾を活用したスタイルにブローグ靴がある。後述するトゥ形状との複合になるが
- ウィングチップ+メダリオン+パーフォレーション→フルブローグ
- ストレートチップ+メダリオン+パーフォレーション→セミブローグ
- ストレートチップ+パーフォレーション→クォーターブローグ
- ストレートチップ+パーフォレーション(トゥ部分のみ)→パンチドキャップトゥ
と大きく4種類に細分される。
タッセル
アッパーに取り付けられる房飾りのこと。元々はヨーロッパの革靴に使われていたが、1930年代、この飾りをヴァンプ中央に取り付けたタッセルローファーがアメリカで大流行した。
スリッポンだが軽すぎない、かといって堅苦しすぎないバランスの良さが愛好家を生むポイントである。
レベンソ仕上げ
アッパーの継ぎ目を見えなくする意匠。黒の内羽根ストレートチップなどに使われることが多い。
艶やかでドレッシーな雰囲気を醸し出し、夜のパーティやレストランで映える。
反面ビジネス仕様はドレッシーすぎて悪目立ちする可能性があり控えた方がよい。
アデレート
通常の内羽根はヴァンプとクォーターの縫い目があるのに対し、アデレートはこの部分がワンピースになっており、ヴァンプでレースステーを覆うような縫い目が見える造り。
内羽根型でフォーマル<ドレッシーを重視したモデルに採用される。
レースステーの継ぎ目の形から"竪琴"とも呼ばれる。
写真のようにブローグとの複合が多い。
スワンネック
内羽根の意匠で、レースステー脇を縦に縫うステッチが一度後方へターンし大ぶりなS字を描く縫い方をする。ヨーロッパに古くから伝わる伝統的な装飾で、有名どころだとエドワードグリーンが採用している。
ビーディング
2枚のパーツを縫い合わせる際に、間に二つ折りのテープを挟むことで折り目をチラつかせるスタイル。"玉出し"とも呼ばれ、アッパーとライニングの縫い目に施される。
補強の役割だが重厚感な見た目になりより上品な印象を与えられる。
ピンキング
革の切れ目をギザギザにするスタイル。専用のピンキングハサミやピンキングマシンを仕様し加工する。ブローグ靴と複合され、メダリオンの形状・ギザギザの大きな等で華やかさを際立たせる。
トゥの種類
プレーントゥ
ヴァンプより先にステッチや装飾が一切なく、一枚革から構成される。最もシンプルかつオーソドックスなスタイルで、どんな場所にも履いていける万能スタイル。
キャップトゥ(ストレートチップ)
トゥの部分だけ別パーツとなっており、アッパーと直線に縫い合わせられたスタイル。
プレーントゥと同じくこちらも万能型だがややフォーマルかつドレッシーな雰囲気。
継ぎ目にパーフォレーションを施したものはパンチドキャップトゥとブローグ靴になり、ドレッシーさが増す。
Uチップ/Vチップ
甲にU字もしくはV字のステッチが入っているスタイル。元々はインディアンが履いていた"モカシン"の甲の縫い目を装飾として転用したもの。
パーツとして縫い合わせているものもあればプレーントゥの上から飾り縫いしたものもある。
甲にモカステッチが入るとカジュアルな雰囲気になるが、日本においてはビジネス上使用しても問題ないとされる。
スワールモカシン
ヴァンプの両サイドに入ったステッチがトゥに向かって緩やかなカーブを描きながら交わることなくソールとの隙間に潜り込んでいくスタイル。モカシン縫いの一種で日本国内では"流れモカシン"とも呼ぶ。
縦のラインが協調的でスマートに見えるためかビズネスに大人気のデザインだが、本来はカジュアルユースであることに注意。
ウィングチップ
鳥の翼のように逆M字を描き、ヴァンプの中央まで伸びるトゥのデザイン。"おかめ飾り"とも呼ばれる。
靴全体にメダリオン/パーフォレーションを施したフルブローグが定番スタイル。
ウィングがヒールまで伸びているものを"ロングウィングチップ"、トゥだけを覆うものを"ショートウィングチップ"と細分類される。
またほぼ菱形にあしらった"ダイヤモンドチップ"も稀に存在する。
元々はカントリーシューズの流れを組んでいるのでカジュアル向きだが、ビズネスでも好んで履かれるスタイルである。
トゥシェイプ
トゥの形状は革靴全体のデザインに限らず履き心地に密接に関連する。
英国の伝統的なアーモンドトゥ
米国を思わせるずんぐりとしたラウンドトゥ
日本やイタリアではスクエアトゥやチゼルトゥが人気
ドイツ系の健康靴やウォーキングシューズに多いオブリークトゥ
婦人靴でよく採用されるポインテッドトゥ
コバとソールの装飾
カラス仕上げ/半カラス仕上げ
黒染めのアッパーが最もフォーマルになるのに合わせてソールも黒く染め上げることでよりエレガントな表情を見せる。黒ソールのことをカラス仕上げ(全カラスとも呼ぶ)、接地しないウエスト部分を染め上げる半カラス仕上げと呼ぶ。
ヴェヴェルドウエスト
ウエストの両サイドが土踏まずの形に沿うようにカーブを描くのが特徴でセンターラインが盛り上がっているように見える。
靴全体を引き締め、足を包み込むようなホールド感をが履き心地を良くしてくれる。
ウエスト部分の縫製処理が機械では困難なため、高級ラインやビスポークでしか見られない仕様である。
テーパードヒール
ヒールが先端に向かって細くなる仕上げ方。通常の垂直なコバがドッシリとした無骨な作りだとすると、テーパードヒールは少々華奢な雰囲気になりドレッシーさが増す。後ろから見るとヒールカップからつながるラインがカーブを描くように見える。総じてドレス靴で活用される仕様。
ダブルソール/トリプルソール
アウトソールとウエストとの間にミッドソールを挟むソールの仕上げ。
ミッドソールが1枚ならダブルソール、2枚ならトリプルソールとなる。
堅牢性が上がり、見た目にも重厚感のあるワイルドな雰囲気になる反面、重量が増し、反り返りが悪くなるため足へ馴染むスピードが遅くなる。
ワークシューズやカントリーシューズなどカジュアルユースに多く見られる。
ラスターヒール
最も磨耗しやすいヒール部分に弧型・楔形・V字形のラバーを組む仕様。
ラスターとはそのラバーの名称。現在主流となっている仕様で、この部分だけ交換修理することも可能。
ヒドゥンチャンネル
アウトソールを縫い付けている出し抜いの糸を隠す仕様、またはその技術の名称。
見た目をすっきりさせる他、磨耗は水分の侵入を防止する役割がある。
トゥチップ
磨耗を防止するためにソールの先端に付けられるパーツ。
ラバー製が安いが、スチール製は"ヴシンテージスチール"と呼び、歩いた時に鳴るシャープな金属音を気にいっている愛好者も多い。
トゥの先端は最も劣化が早いので、新品靴についていなければ工務店に取り付け依頼するのを推奨する。
まとめ
一通り、革靴の意匠、デザインを説明したがこれらを覚える必要は一切ない。
革靴選びの際に必要なのはせいぜい「内羽根か外羽根か」、「装飾入りのブローグ靴かシンプルなプレーントゥ、ストレートチップか」それくらいだろう。
革靴をひとしきり眺めてみて、他と風貌が違うのであれば、細部の意匠が施されているはずだ。
履くために選ぶだけでなく、見て楽しいのも革靴の魅力と言えるだろう。